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仙台地方裁判所 平成元年(ソ)3号 決定

抗告人 株式会社セントラルファイナンス

右代表者代表取締役 廣澤金久

右訴訟代理人弁護士 高橋勝夫

同 渡辺寿一

同 菅野芳人

相手方 菅野文雄

主文

原決定を取り消す。

相手方の移送申立てを却下する。

理由

一  本件抗告の趣旨及び理由は、別紙抗告状(写)記載のとおりである。

二  一件記録によれば、抗告人(原告)が相手方(被告)に対して提起した立替金請求事件(仙台簡易裁判所平成元年(ハ)第六四八号)について、相手方は原審である仙台簡易裁判所に、民事訴訟法三〇条に基づき、管轄の合意を否定して、管轄違いを理由とし、また、同法三一条に基づき、相手方に著しい損害または遅滞が生じることを理由として、湯沢簡易裁判所に移送を求める旨申立てたところ、原審は、管轄違いを理由とする移送の申立てについては理由はないが、同法三一条に基づく移送の申立てについては、訴訟の速やかな進行を図り、かつ、相手方に生ずる著しい損害を避ける必要があるとして、本件訴訟を湯沢簡易裁判所に移送する旨の決定をなしたこと、右決定について、抗告人から即時抗告の申立てがなされたことが認められる。

三  そこで、仙台簡易裁判所での審理が、相手方に著しい損害を与え、または、訴訟の著しい遅延をもたらすか否かについて検討するに、記録によれば、本件訴訟は、秋田県雄勝郡雄勝町在住の相手方が同県湯沢市所在の販売店雄勝自販こと菅野正勝から自動車を購入するに際し、抗告人と立替払契約を締結したとして、抗告人が相手方に対し、右契約に基づく立替金及び手数料の残金とこれに対する遅延損害金の支払いを求めるというものであるところ、相手方は、本件の立替払契約書は右菅野が無断で相手方の氏名、印鑑を冒用して作成したものであるとして、立替払契約の成立を争っていること、右争点の審理では、相手方本人、右菅野、抗告人会社担当者ら関係者の証人尋問が予想されるところ、前記のとおり相手方本人及び右菅野ら関係者は湯沢市近辺に居住しており、抗告人会社で本件立替払契約を担当したのは秋田営業所であったこと、他方、本件訴訟で提出が予想される書証中には、本件立替払契約締結に際し、抗告人会社担当者が相手方本人に契約意思の確認の電話をかけたことを証する書面や、相手方が右菅野に対し本件立替払契約において相手方の名義を用いることを承諾していた旨の相手方作成の抗告人宛ての文書が存することが認められる。

右のとおり相手方を初めとする関係者の多くが湯沢市近辺ないし秋田市近辺に居住しているものと推測されることからすると、本件訴訟を仙台簡易裁判所で行うよりも、湯沢簡易裁判所で行うほうが、訴訟の促進を図り得るとは一応いえるけれども、本件の争点は立替払契約の成否に絞られており、また、事案の内容、提出が予想される書証等に照らせば、証拠調べを要する証人等の数も少人数で済み、尋問内容もさほど難しいものではないので、比較的短期間で審理を遂げられるものと考えられるから、本件を仙台簡易裁判所で行ったとしても、訴訟の著しい遅延をきたすことになるとは認められない。

また、本件を仙台簡易裁判所で行うと、相手方の負担は増えることになるが、その程度をみると、相手方肩書地から仙台までかなりの時間を要するとはいえ、弁論期日の時間の指定について配慮を得られれば、日帰りも可能であり、その交通費もさほど高額なものではなく(鉄道を利用した場合の相手方の最寄りの駅から仙台までの往復運賃は約六〇〇〇円と認められる。)、また、本件事案の内容等からすると弁論回数も前記のとおりさほど多くはないものと予想され、これらの事情に照らすと、抗告人と相手方双方の経済的事情を考慮しても、相手方の負担の増加は、一般的にそれに耐えるのに困難とまでは認められず、相手方に著しい損害が生じるということはできない。

四  よって、相手方の民事訴訟法三一条に基づく移送申立てを認容した原決定は、失当であるからこれを取り消し、その申立てを却下することとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 磯部喬 裁判官 伊藤紘基 石井浩)

〈以下省略〉

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